歯科裁判事例【6】

Case6.
治療方法の短所に関する説明

【事件番号】

大阪地判平成17年3月30日
平成13年(ワ)第7234号 損害賠償請求事件

【事案の概要】

本件は、左右1番から3番までのうち5本と右8番の合計6本しか歯が残っておらず、残った歯も前部の5本が歯槽膿漏でぐらつく状態であった患者に対し、前歯5本を抜歯して左右4番から6番に合計6本のインプラント体を埋入して、これを支台に13本の歯冠部を装着したものの、インプラント体が上顎骨に結合せず、5回にわたって埋入したものの結局成功しなかったため、患者がクリニックに対して、治療に伴うリスクについて説明がなかったことなどを理由として、損害賠償の支払いを求めた事案です。

【争点】

  1.  インプラント治療の適応の可否とその診断のための検査が十分だったか否か
  2.  手技上の過失の有無
  3.  リスクに関する説明義務違反の有無
  4.  説明義務違反と慰謝料との間の因果関係の有無

【判旨】

一部認容 
619万5000円(請求額 863万5000円)

本判決は、争点3.の説明義務違反の有無について、「インプラント治療は、咀嚼感や審美面で長所を有している一方、治療が不成功に終わったり、合併症を生ずる可能性があるなどの短所があり、その上、必要性、緊急性のある治療でもないから、歯科医師は、インプラント治療を実施するに当たっては、治療が不成功に終わったり、合併症を生じる可能性があることなどを説明し、さらに、当該患者について、インプラントの成功確率を下げるような消極的要因がある場合には、当該要因についても十分説明した上で、成功の可能性とリスクについて具体的な説明を行うべき義務を負っている」とした上で、担当医は、治療が不成功に終わる可能性があることなどのインプラント治療の短所、特に歯冠の数に比べてインプラント体の本数が少ないなどの治療の成功確率を下げるような消極的要因について説明していなかったので、説明義務違反があると判示しました。

本件のポイント

裁判所は、インプラント治療については、①外科的侵襲を伴い、合併症のリスクがあること、②治療の必要性・緊急性が高くないこと、③審美面での患者の要望を考慮すべき治療であること、④治療費が高額な自由診療であること、などから、他の医療に比して詳細な説明を要求する傾向にあるようです。そのため、インプラント治療を行う歯科医師の先生は、リスクについても、詳細でわかりやすい説明をするよう心掛ける必要があります。

一言でリスクと言っても、インプラント治療のリスクは、具体的な術式と患者の口腔内の状態によって異なってきます。そのため、後になってから、同意書のひな形では不十分であると判断されてしまうことも考えられます。そのため、特に注意すべきリスクについては、説明事項と同意を得たことをカルテにも記載しておくことが望ましいといえます。

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