歯科裁判事例【12】

Case12.
下顎管までの距離を正確に把握するための術前検査

【事件番号】

大津地裁令和4年1月14日判決
令和2年(ワ)第11号 
損害賠償請求事件
(判例時報2548号掲載)

【事案の概要】

本件は、左下6番と7番の下にインプラントを埋入したところ、下歯槽神経が損傷して知覚麻痺が生じたことから、患者が歯科医院に対し、主治医には下歯槽神経を損傷しないようにCT撮影などの術前検査を行って神経の走行位置を確認し、埋入方向や深度に注意を払うべき義務を怠った過失があるとして、診療契約の債務不履行により損害賠償の支払を求めた事案です。

【争点】

下顎管までの距離を正確に把握するための術前検査をせずに本件手術を行った注意義務違反の有無等

【判旨】

一部請求認容290万円(請求金額 500万円)

本件では、治療当時に、下顎臼歯部のインプラント治療においては下歯槽神経損傷の頻度が高いため、CT等を用いた術前検査によって神経の走行位置を確認し、埋入方向や深度に注意を払う必要があることが一般的な知見として認識されており、被告がこのような神経損傷を生じさせないために適切な術前検査を行って神経の走行位置を確認し、インプラント体の埋入方向や深度に注意を払うべき注意義務を負っていたことについては当事者間で争いがありませんでした。

被告は、全てのインプラント手術でCT撮影が求められることはなく、現にCT撮影装置を持たない歯科医院でもインプラント手術が多数行われているのであり、本件においても被告院長は口腔模型を作成して下歯槽神経までの距離や骨量等を確認し、インプラント体の埋入方向や深度に注意を払って手術を行ったのであるから注意義務違反はないと主張しました。

これに対し、裁判所は、パノラマレントゲン写真であったとしてもインプラント体の先端が下歯槽管に重なる位置に達することは読影し得たにもかかわらず、被告院長はそのような読影をせず、下歯槽管がより下方にあると誤解していたと認定した上で、口腔模型によって歯茎内部の構造を正確に把握することはできないから口腔模型を作成したからといって義務を果たしたことにはならず、また、被告院長がパノラマレントゲンを見る以上に下歯槽管の位置を正確に把握しようと努めたことについて具体的な主張立証はないとして、過失を認めました。

本件のポイント

下顎臼歯部のインプラント手術においては下歯槽神経損傷が高い頻度で生じることから、CT等を用いた術前検査によって神経の走行を確認し、埋入方向や深度に注意を払う必要があることについては争いの余地がありません。

そのため、CT撮影を行わずに下顎臼歯部のインプラント手術を行って下歯槽神経損傷が生じた場合、特段の事情がない限りは過失が認められることになると考えられます。

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