歯科裁判事例【13】

Case13.
嚢胞がある場合のCT検査義務

【事件番号】

東京地裁令和4年5月26日判決
令和元年(ワ)第34447号 
損害賠償請求事件

【事案の概要】

本件は、左上1番のインプラント体埋入手術を受けたものの、その後に他の歯科医院で埋入部分に含歯性嚢胞が存在することが判明して、顎骨嚢胞開窓術、左上1番のインプラント体の除去、右上1番の抜歯及び左上2番から5番までの歯根端切除術をそれぞれ受けた患者が、歯科医院に対して、インプラント体埋入手術を実施するにあたってCT検査を怠り、含歯性嚢胞を見落とした注意義務違反によって、インプラントの治療費が無駄になり、長期にわたる入通院が必要になり、多数の歯の補綴処置も必要になったとして、損害賠償の支払を求めた事案です。

【争点】

CT検査義務違反の有無及び損害額

【判旨】

一部請求認容94万円(請求金額 729万6907円)

裁判所は、パノラマレントゲン写真から嚢胞様の不透過像が確認できること、上顎前歯部という切歯管嚢胞や埋伏歯等の症例が少なからず存在する部位のインプラント体埋入手術であることから、被告歯科医師には、左上1番付近の病変の存在を疑って、CT検査を実施すべき義務があったと判示しました。

歯科医院側は、平成23年当時の歯科医院におけるCT撮影機器の普及率は10%から20%であったのであるから、CT検査義務違反をいう患者側の主張は歯科業界の実情に反すると主張しましたが、裁判所は、平成23年当時でも、東京23区内においては、歯科開業医からの依頼を受けてインプラント体埋入手術のためのCT検査を実施する医療施設が多数存在し、CT検査は容易であったとして、CT撮影義務の存在を否定するには足りないとしました。

また、歯科医院側は、ボーンマッピング法により歯槽骨顎堤を計測しており、パントモレントゲン写真ではカバーできない三次元的な位置関係や骨量の検査を補っていると主張しましたが、裁判所は、ボーンマッピング法では粘膜の厚みや骨の幅径を把握することしかできず、解剖学的構造物を見つけることはできないとの各鑑定人の意見を医学的合理性があるものと認め、ボーンマッピング法は術前検査として不十分であるとしました。

一方で、裁判所は、嚢胞が若干拡大しているものの左上6番に拡大したとは認められないため、平成23年11月時点で治療をしても治療内容は変わらず、同じように多数の歯に補綴措置を行うことになったであろうと認定して、長期にわたる入通院の慰謝料と多数の歯の補綴処置が必要になったことによる後遺障害慰謝料については認めませんでした。

本件のポイント

下歯槽神経損傷のように一般的にリスクが知られている治療を行う場合や嚢胞のような特殊な疾患の存在が予見できる場合には、CT撮影を行う義務が認められる可能性が高いといえます。

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