歯科関連裁判事例【1】

Case1.
治療開始前に死亡し契約書が無効と判断された例

インプラントの契約書に患者都合による治療中断の場合には治療費を返還しない旨の条項が設けられていたが、治療前に患者が死亡したという事案で、この条項が消費者契約法により無効であるとされたケース(判例時報2021年6月1日号)

津地方裁判所四日市支部 令和元年(ワ)第283号 令和2年8月31日判決(確定)

【事案の概要】

本件は、インプラントの治療前に患者が亡くなったために、相続人らがクリニックに対して支払い済みの治療費の返還を求めたところ、クリニックが契約書に患者都合による治療中断の場合には治療費を返還しない旨の条項(以下「本件不返還条項」といいます。)が設けられていることを理由に返還を拒絶した、という事案です。

【裁判所の判断】

裁判所は、本件不返還条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるため、消費者契約法10条により無効であると判断しました。
判決の挙げる理由は次の4つです。

  1. 治療が行われていなくても治療費を返還しないという条項は、治療費の対価性を損なうこと
  2. 身体的侵襲を伴う契約は患者の意思に基づくものでなければならないが、治療費を返還しないという条項があると、患者は治療の中断や転院をしづらくなってしまうこと
  3. 本件不返還条項は、承諾書に定型的に記載されたものであって、個別に交渉されて合意されたものではなく、また、インプラント治療が検討されたその日に契約締結に至っていること
  4. 患者が80歳を超える高齢であったこと

クリニック側で参考になる点

この裁判例からわかるように、契約書、同意書等に、クリニックに有利な条項を書いておいたとしても、紛争になった場合に必ずしも勝てるとは限りません。
たしかに、紛争予防のためには、患者さんから各種書面に署名をもらうことが必要不可欠です。しかし、書面を過信してはいけません。治療に関して注意が必要と思われる患者さんの場合は、診療記録にやり取りを詳細に記録するなど、普段以上に準備するべきです。
たとえば、本件のようなご高齢の患者さんに高額の自費治療を行う場合、患者さんとのやり取りをいつも以上に詳細に記録する、直ちに治療を開始することはせず、いったん持ち帰っていただき熟考期間を設ける、患者さんのご親族にも来院していただいて書面にサインしていただく、といった防御策が有効であるといえるでしょう。

患者側で参考になる点

患者側としては、人道上、契約書があるとはいえ、あまりに不条理と思われる場合は、法律によって救済されるという先例として参考になります。
悪質なクリニックは、患者にありとあらゆる書面に署名させて、それを盾に返金を拒否してきます。しかし、不利な書面に署名をしていた場合でも、事案の内容によっては書面の効力を否定できる場合があります。何やらいろいろな書面に署名した記憶があったとしても、簡単に諦めるのではなく、信頼できる弁護士に相談してみることが大切です。

歯科関連裁判事例集

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